海外赴任者に必要な「家庭力」|家族の安定が仕事の成果を支える

「家庭が順調じゃないと仕事ができないからね」
アメリカ赴任を間近に控え、赴任先の上司となるアメリカ人パートナーとオンライン面談をした時に言われた言葉です。
その面談では、赴任後に予定している仕事ではなく、0歳児がいること、妻の英語力、妻が海外帯同に前向きかなど、家庭のことについていろいろと話したのです。これは、私のような昭和生まれの氷河期世代にとっては非常に新鮮な経験でした。
一般に海外赴任と言うと語学力や異文化理解力といったスキルが注目されますが、本稿では家庭が安定していることの重要性と、そのために何をすべきかについて論じていきます。
なお本稿では、①夫の赴任に妻が帯同する、②子どもがいる、③夫婦ともに帰国子女やインター育ちではない、という前提で執筆しています。 当然ながら、妻の赴任に夫が帯同するケース、子どもの有無、夫婦の語学力など状況は千差万別ですが、やはり最も多いのは本稿が前提とするケースだと思われるからです。
本稿の本質である「家庭を大切にするのも能力のうち」という考えは、赴任者が夫か妻かにはあまり関係ないので、その前提でお読みいただければと思います。
配偶者にかかる想像以上の負担
さて、アメリカ人パートナーとの面談を経て、家庭の重要性を感じた私ですが、実際に赴任した時は、妻にかなりの負担をかけてしまいました。
最も大きいのが車です。その時の赴任先はテキサス州ダラスだったのですが、最寄りのスーパーですら車が必要な距離。当時の私の給料では通勤用の1台目を買うのが精一杯で、妻のために2台目を買うまでに半年近くかかりました。
その間、妻は1歳になったばかりの子どもとアパートの周りを散歩するぐらいしかできず、相当なストレスを抱えさせてしまったのです。
このようなケースは我が家だけではありません。
前述のダラス赴任からさかのぼること約10年、独身でニューヨークに赴任していた時に、
「江上君、妻が病院に運ばれたんだけど、英語がわからないから来てくれない?」
と別の赴任者の方から呼び出しを受けたことがあります。 あわてて病院にかけつけると、奥さまは英語が苦手、小さなお子さんが2人いる、車はまだ怖くて乗りたくない、ご主人は仕事で不在が続くなどのストレスによる過呼吸(ちなみに英語ではhyperventilation)とのことでした。
「夫が海外赴任になった」というと「うらやましい!」と言われることが多いのですが、小さい子どもがいるときは妻に大きなストレスがかかるもの。
そして、家庭内にトラブルや不安があると、夫の仕事の集中力も低下します。 「家庭が順調じゃないと仕事ができない」という冒頭のアメリカ人パートナーの言葉は、まさに本質と言えるでしょう。
海外赴任者に必要な「休む力」
さて、夫は妻にどういう配慮をすべきでしょうか?
答えはシンプルかつストレート。いわゆるガス抜きをしてあげようという一点に絞られます。
そしてガス抜きの方向は大きく2つ。1つは家族で出掛けて楽しむこと。もう1つは妻に一人の時間を作ること。
後者については、子どもが乳幼児だと父親が子どもを連れ出す時間にも限界がありますが、数時間でもゆっくり休ませてあげることは大きな違いをもたらします。
また、ガス抜きのためには、夫が心がけるべきポイントがいくつかあります。
週末は必ず休む
海外赴任者は本国とのやり取りを担うことが多いので、時差の関係で早朝や深夜でも仕事をしなくてはいけないことがありますし、ひとたび何かが起こればスクランブル発進が必要なこともあるでしょう。
しかし、やはり週末は家族のために使いたいもの。となれば、仕事を平日で終わらせる努力は当然に求められます。
せっかくの赴任なのだから、週末を使っていろいろなところに行ってみたい!といったポジティブな気持ちで、働くときは働く、休みの日は休むというメリハリをつけましょう。
上司とのコミュニケーション
意外と盲点なのがこれ。
上司が日本人であれ現地人であれ、日ごろのちょっとした会話の中で子どもや家庭の様子を話すのです。一般に上司は部下より年上なので、同じような人生のステージを経験していることが多いはず。
日頃から家庭の状況をインプットしておくと、何かと配慮してくれることがあります(アメリカの場合、それが良い上司の要件とみなされることが多い)。
私の場合は、泊まりがけの出張が入りそうになったときに、アメリカ人パートナーが気を利かせてアサインを変更してくれたことがあります。
子どもとのコミュニケーション
さらに盲点なのがこれです。
子どもが乳幼児のときは、どうしても母親が求められるのは仕方ないのですが、短い時間であっても子どもを引き受けて妻に休みを取らせるには、普段から子どもとコミュニケーションを取っておかなければいけません。
朝早く出社して夜遅くに帰宅するので、子どもは寝ていることが多いのですが、それでも「仕事が忙しい」をぐっと飲みこんで、少しの時間で良いので、全力で子どもの相手をしてあげましょう。
これらすべて、言うほど簡単ではないのは十分承知していますが、そのような努力をしていることが妻に伝わるだけでも家庭の安定には一役買います。
仕事の成功、家族の成功
私は、日本のもつポテンシャルは非常に高いと確信していますが、そのポテンシャルを発揮しきれていないとも感じています。しかしこれは、ポテンシャルを発揮できる成長余地がまだまだ多く残されているということでもあります。
持てるポテンシャルを最大化するためには、やはり海外への進出が不可避であり、そのためにも多くのビジネスパーソンにどんどん海外に行って成果を出してほしいのです。
その意味で、家庭を安定させる努力は、決して「家族サービス」のような義務的な響きを含むものではなく、前向きに仕事に取り組むための基礎力と言えるでしょう。
何より、家族を伴って海外で過ごすということは貴重な経験です。
子どもの成長はあっという間。無邪気にひざの上に乗ってくる期間は本当に限られており、それが過ぎ去ってから後悔しても取り返しはつきません。
子どもにとっても親が一緒に過ごしてくれた記憶は何物にも代えがたい財産のはずです。
海外赴任を「仕事の成功」だけでなく「家族の成功」にもする。そのために、うまくエネルギーを配分することは、海外赴任者が備えるべき重要な能力の一つだと言えるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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