海外駐在員は注意!「裏レポーティングライン」の罠

海外駐在員が日本本社に裏で情報共有をすると、現地からの信頼を失うことがあります。海外子会社管理で注意すべきレポーティングラインの考え方と、信頼を得るための姿勢を解説します。

「日本には見えないレポーティングラインがある」

これは日本のビジネス文化が語られるときにしばしば話題にされるトピックです。

つまり、正式な組織図上のレポーティングラインとは別に、「この件は○○部長の耳に入れておこう」「✕✕役員には事前に相談しておいた方が良い」といった、非公式な報告ルートあるいは相談ルートがあるのです。

そして、この非公式なルートを理解して「うまくやる」人が、日本では優秀とされる風潮があります。

この非公式ルート、確かにわかりにくいですし、これによって意思決定に時間がかかる側面もあるので、批判の対象になることもありますよね。

一般に海外では日本よりもレポーティングラインが明確なことが多いので、確かにわかりにくいだろうなと思います。(ちなみに、アメリカやイギリスをはじめとする欧米ではレポーティングラインがかなり明確で、アジアはそこまでではないものの、やはり日本よりは明確になっていることが多いようです。)

目次

日本人の感覚 vs 現地の感覚

さて、日本企業が外国企業を買収して子会社化した時にしばしば見られるのが、

「CEOやCFOなどの経営陣はそのまま留任」

「日本人駐在員を一定のポジションに送り込む」

というパターンです。

この場合、日本人駐在員も現地のレポーティングラインに組み込まれるので、本来なら現地のCEOやCFOに報告するのが建前です。

しかし実際には、現地の上席者をスキップして、日本の役員などに裏で情報を流しているケースは珍しくありません

これが「裏レポーティングライン」です。

目に見えないレポーティングラインに慣れている日本人はあまり罪の感覚はないのでしょうが、現地の感覚からすると「なにをコソコソやっているんだ」となりがちです。

いったん裏レポーティングラインの存在が知られると、一気に現地からの信用はなくなり、「日本人に知られるとマズい」という現地の防衛姿勢が強くなり、そもそも情報が入らなくなる、あるいは「きれいな情報」しか入らなくなる可能性があります。

現地の人からすれば当然のリアクションであり、この状況で「うまくやる」のは困難なので、やはり裏レポーティングラインを存在させることは避けるべきでしょう。 実際にある企業では、裏レポーティングラインに不信感をもった現地経営陣が、日本の親会社に直談判して日本人駐在員を追い返してしまったことがあります。

駐在員不要論

さて、裏レポーティングラインは良くない、現地のレポーティングラインを尊重すべき、という話をしていくと、「だったら日本人駐在員なんて要らないのでは?」という主張も出てきそうです。

確かにその主張も理解できるのですが、私は日本人駐在員に存在価値を認めています。その理由は色々あるのですが、代表的なものは以下の通りです。

  • 海外子会社のガバナンスの側面から、現地企業に「見られている」と感じさせる存在があることは重要
  • 企業グループとしての戦略に一貫性を持たせるために、親会社の意図を現地に「翻訳」する存在は必要
  • 一緒に机を並べて働いた経験を持つ従業員がグループ内に増えることは、内部連携の強化の面でもプラスになる

いずれにしても、現地法人に対する「お目付け役」という側面をゼロにはできないので(こちらがそのつもりがなくても、現地側がそう感じてしまう)、多かれ少なかれ警戒感を持たれてしまうのは仕方ないところがあります。

それでも可能な限りモニタリングも情報収集も人的交流も成果を上げるにはどうすれば良いでしょうか?

会社としてやるべきこと

これは現地法人との事前のすり合わせがすべてと言えます。

駐在員は、そもそも日本と現地の板挟みになりやすい非常に難しい役回りなので、その駐在員が現地で「うまくやる」ことができるように、以下のようなことを明言して土俵を作ってあげるのです。

  • 日本人駐在員には、「現地に対するモニタリング」「親会社の意図の翻訳者」の役割を負わせる予定であること
  • これはグループの方向性と現地法人の方向性を一致させ、グループとして成果を出すために必要であること
  • そのためには、駐在員と親会社の直接的なコミュニケーションも必要なので、「裏レポーティングライン」ならぬ「デュアルレポーティングライン」になること

このすり合わせは駐在員本人にやらせてはいけません。駐在員のコミュニケーション能力に依存するのではなく、日本と現地のトップ同士で合意を作っておく必要があります

「あたりまえだろ」と言われるかもしれませんが、実際にはこういうところまで目配りが届いておらず、結果として駐在員が現地で苦労するケースは少なくありません。

駐在員がやるべきこと

繰り返しますが、駐在員というものは、下手をすると「日本からのスパイ」のような扱いを受けることさえある難しい役回りです。どうしても一定の警戒感は持たれてしまいますし、結果として「きれいな情報」だけが集まりがちです。

それでも可能な限り「リアルな情報」を把握し、日本との橋渡し役をやり遂げるには、地味なようですが「日ごろの態度」が全てです。(こういうことに「一発逆転ホームラン」のような解決策はない)

まず、自分がモニタリングの役割を負っていることを隠す必要はありません。とにかく「コソコソ感」をゼロにして、普段からオープンな態度を保つことが必要です。

また、複数の日本人が赴任しているときに日本人だけで固まるようなことも避けなくてはいけません。これは、日本人が思う以上に「あの人たち、なにやっているんだろう」という現地との壁を作るものなのです。

そして「親会社の決定だから」で押し切るような態度は絶対にとってはいけません。これは最も現地の人から反発を招きやすい態度です。現地の従業員は、最終的には親会社の意向が反映されるであろうことなど当然に理解しています。それでも相手はAIではなく感情を持つ人間なのですから、自分たちに寄り添う姿勢があるかはシビアに見られます。

結局、「現地からの視線」を意識するか

これまで書いてきた「やるべきこと」は、結局のところ「現地からどう見られているか」を意識すれば、おのずと対応できるのではないかと思っています。

現地の人に言わせると「何をしているかわからない」がもっとも不気味なのですから、そう感じられないよう、常にオープンな態度を取る。

やることはこれだけです。

もちろん、言うことは簡単でも、実際にそのような態度を保ち続け、現地からの信頼を得るにはかなりの時間と労力が必要です。

しかし、努力を続けて信頼を勝ち得た時には、自分の果たす役割の大きさ、難しさに見合う充実感を感じられるはずです。

実際に私は、現地で頑張った結果として自分が信頼されているという感覚があるので、日本に帰りたくない、という駐在員を何人も知っています。

このような駐在員が一人でも増えるように、本稿が少しでも貢献できるのであればこれ以上の喜びはありません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

Altus Leap(アルタス リープ)代表 
公認会計士 TOEIC975点

日本のさらなる飛躍のためにはグローバル人材の育成こそがカギになるという信念のもと、「英語・ファイナンス・文化理解」をパッケージ化した研修プログラム「Altus Leap(アルタス リープ)」をスタート。
実務に直結したカリキュラム、受講者との徹底的な伴走、そして受講者が日本人であることを強く意識した指導により、海外を「任せられる」人材を完成させます。
研修講師は海外ビジネスに関する豊富な経験を有する公認会計士や弁護士などのエキスパートばかり。クライアントが高く(Altus)飛躍(Leap)するために、人材育成の面から強力なサポートを提供します。

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