ルールか、神か、人間関係か―海外ビジネスで「うまくやる」ために

世界には多種多様な文化が存在しています。この多様性は、旅行や観光という面においては楽しい限りですが、ビジネスの面においてはこちらの常識が通じないことによるストレスや、コミュニケーションのズレによるトラブルにつながるなど、なかなかの厄介者にもなりえます。
そうすると浮上してくるのが、「文化理解」とか「異文化コミュニケーション」といったキーワードなのですが、世界には200近くの国があるので、「○○国はこう」「✕✕国はこう」などと個別に追いかけることは困難です。
そこで本稿では、グローバル教育研究所の渥美育子氏の著作「世界で戦える人材の条件」(PHPビジネス新書)で紹介されている「文化コード」という考え方をご紹介します。これは、多種多様な文化も、「何に価値をおくか」という視点で見ると大きく4つに分類できるという考え方です。
非常に説得力のある主張であり、海外駐在員はもちろん、日本で海外事業部門に勤務している方、そしてなにより人材育成を担当している方に知ってほしいと思っています。
「何に価値をおくか」を理解すればグローバルビジネスは怖くない
海外に赴任したり、海外の取引先とビジネスを行う時、多くの人がまず不安に感じるのが言語です。しかしそれと同じぐらい、商習慣や交渉の進め方といった文化の違いにも不安を感じています。
実際、日本はかなり均質な国であり、その中で仕事をしてきた我々が海外の人と仕事をすると「屁理屈ばかり言ってくる」「言うことがコロコロ変わる」「聞いたことに答えてくれない」といった事態にしばしば直面し、頭を抱えることになります。
渥美氏は、多種多様に見える文化も、人間の行動が「何に価値をおいているか」に着目すれば以下の4つに分類できるとしており、これらのグループを「文化コード」と名付けています。
「リーガルコード」ルールや契約に価値をおく文化(アメリカ、イギリスなど)
「レリジャスコード」神の教えに価値をおく文化(中東、インドネシアなど)
「モラルコード」人間関係に価値をおく文化(日本、中国、ヨーロッパ諸国など)
「ミックスコード」上記の複数が混じった文化(ドイツ、オーストラリアなど)
ちなみに、これらを視覚的に把握しやすいように地図に落とし込んだものも作成されており、それが下の「文化の世界地図」です。オレンジ色がリーガルコード、黄色がレリジャスコード、緑色がモラルコード、そして青色がミックスコードです。

言うまでもなく、同じ文化コードの中でも例外や濃淡はあります。せまい日本の中ですら企業文化は様々ですし、同じ会社の中であっても部署や上司によって雰囲気は違うのですから。
しかし、このような大きな色分けを知っておくことは、グローバルビジネスを進めるうえでとても有益です。
文化理解は海外での仕事力に直結する
それぞれの文化コードの説明にもう少し色付けをしましょう。
仮に今、商談を進めている相手がモラルコードである中国の人だったとします。業界や企業によって濃淡はあるものの、中国におけるビジネスでは会食に行って酒を酌み交わすなど人的関係の構築が非常に重要であることはご存知の方も多いでしょう。つまり、日本と同じような「相手のフトコロに入り込む」タイプの営業手法が比較的通じやすいと言えます。
これが、アメリカやイギリスのようなリーガルコードの国の場合、ルールや契約といった明確なものに価値を置く傾向があるので、モラルコードと同じような営業スタイルが通用するとは限りません。この違いを理解せずに、懸命に会食を重ねて相手のフトコロに入り込み、「良い手ごたえです」などと期待を膨らませていても、契約は競合相手にとられてしまうようなことは少なくありません。
レリジャスコードの国の場合、これは主にイスラム圏の国ということになりますが、何よりイスラムを尊重する姿勢を示さないと話になりません。そして、それができていることを前提として、実際のビジネスは人脈を使った紹介によって進むことが多いようです(もちろん国によって濃淡はあります)。
この点、イスラムは一般的な日本人にはなじみが薄いので、なんとなく遠い世界で踏み込みにくいイメージがありますが、日本は宗教色が薄いため宗教的な対立はなく、かつ礼儀正しい国と思われているところがあるので、実は比較的やりやすいという声も聞かれます。
最後のミックスコードですが、これはその国の歴史の影響から上記のようにスッキリとは分けられない文化の国で、例えばインドがわかりやすいのですが、もともとモラルコードだったところ、イギリスの植民地になったことでリーガルコードが混在しているというわけです。
グローバルビジネスで最も重要なこと
ここまで渥美育子氏の文化コードの考えをご紹介してきましたが、この知識を生かしてグローバルビジネスで「うまくやる」基礎となるのは、人に対する敬意だと私は考えています。
さすがに昨今はあまり見られないと思いますが、少し前まで日本人駐在員のなかには、特にアジアなどの発展途上国の人に対して上から物を言うような態度をとる人がいました。今でも、上からモノ申すとまでは言いませんが、「オレ先輩、オマエ後輩」のような日本的な上下関係を現地に持ち込むタイプの人はいます。
こういう目線は、「オレがいろいろ教えてやっている」という本人なりの善意から生じている場合もあるので逆に厄介なのですが、それを受ける側の人間は何倍も敏感です。場合によっては訴訟といった面倒なことが起こる可能性すらあるのです。
「人に敬意を払う」なんて、文字にすればあたり前すぎて何を今さらと言われるかもしれませんが、世の中の重要なことはたいていシンプルで、しかもそのシンプルなことを「知っている」ことと「できている」ことは別ものです。
グローバル人材を目指す、あるいはそのような人材を育成する際には、語学力の向上と同じぐらい、このような「人としての基礎」とでも言うべき姿勢をはぐくむことが重要なのです。

コメント